ルールの論理


 近代スポーツは、ルールによって成り立っている。近代国家は、法によって成り立っている。この二つのテーゼは同じ意義を持っている。

 では、ルールはいつ頃、成立したのか。サッカーやラグビーを例にとると19世紀中頃から後半と言われている。(「スポーツルールはなぜ不公平なのか」生島 淳著 新潮選書)これを早いと見るか、遅いと見るかは議論の分かれるところである。しかし、今日のスポーツの隆盛を見るとかなり短期間で近代スポーツが確立されたことが見て取れる。

 ルールの論理というのは、ルールが成立する過程に重要な鍵が隠されている。
 ルールの成立には、審判の存在が不可欠である。逆に言えば、審判が確立されたことによってルールは成立したとも言える。審判という地位が確立されたことによって近代スポーツは、急速に発展するのである。
 ルールというのは、最初から現代のように整ったものであったわけではない。ルールが確立されるまで、審判が決定的な役割を果たしてきたのである。
 今でこそルールは絶対的な権威を持っているが、最初からルールありきではなかったのである。ルールを決める事が初期の頃には最大の難問だったのである。そこで力を発揮したのが、代理人である。先ず、初期の頃は、チームのキャプテンや代表者が話し合いによって試合毎に最初に話し合ってルールを決めてきた。ここで重要なのは、事前の取り決め、契約と当事者間の会議である。契約と会議は、近代社会のキーワードの一つである。次に、当事者間ではなかなか決定できないので、代理人を双方が立てて事前に会議をする。その代理人(アンパイアー)がである。そして、次に、アンパイアーが中立的な立場の人間を指名する。それが最終的審判(レフェリー)である。(「スポーツルールの社会学」中村敏雄著 朝日選書 朝日新聞社)そして、それが公式試合の標準的ルールの統一へと向かう。
 ここにルールの論理の本質が隠されている。ルールというのは、所与の法則ではなく。当事者同士の話し合いをへて決められた契約なのである。基本的にその取り決めは力関係によって決まる。

 レフェリーとは、「問題解決を(アンパイアー)から委任されたものという意で、アンバイアーとは、「選手立場が同じでない人」を意味する。

 それから統一ルールを作るために幾つかの協会が生まれ、フットボールを母胎としたサッカーとラグビーは、統一ルールを制定する過程で分裂していくのである。

 なぜ、野球は、九人でなければならないのか。なぜ、三振でアウトなのか。なぜ、オフサイドがあるのか。これらは、自然の法則とは違い。人為的な契約なのである。つまり、スポーツというのは、ルールを取り決める段階から始まっているのである。

 また、重要なのは、スポーツと賭博の関係である。スポーツのルールが厳格になったのは、それが賭博に結びついていたからである。皮肉なことに、賭博は、厳正な判定を必要とした。それが、ルールの厳正さに結びついたのである。つまり、経済と結びつくことによってルールは確立されたのである。
 
 ルールによって決められるのは、第一に、定義(選手の定義。選手の資格・役割の規定。審判の定義。審判の資格・役割の規定。用語の定義。用具の定義。空間の定義。)。第二に、初期設定(選手の位置・守備位置。選手の数。審判の位置。審判の数。ボールの位置)。第三に、制約事項。第四に、禁止事項、違反事項、罰則事項。判定に関する事項。第五に、有効性の範囲(時間的、空間的)。第六に、目的・ゴール(勝敗の判定の仕方)。第七に、競技の進行(手続き、段取り、手順)に関する事項である。

 有効性の範囲には時間的なものと空間的なものがあり、空間的なものは、主としてフィールドの規定、時間的なものは、開始、終了、中断、再開などである。つまり、有効性の範囲インプレー、アウトプレーの判定の境界線である。

 この様に、ルールは、極めて構造的であり、ルールの論理は構造的なものなのである。そして、この様なルールの構造は、近代国家の下地になっている。つまり、定義、時間、空間、範囲と言った要素である。

参考文献
「スポーツルールはなぜ不公平なのか」生島 淳著 新潮選書
「スポーツルールの社会学」中村敏雄著 朝日選書 朝日新聞社
「オフサイドはなぜ反則か」中村敏雄著 平凡社
「近代スポーツの誕生」松井良明著 講談社現代新書




        


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