近代市民社会は、会議体を組み合わせて成り立っている。特に、経済では、法的に、会議は制度化されている。つまり、会議は、経済の仕組みの一種の部品として経済体制を成立させているのである。しかも、会議は、その構造や規則に至るまで細かく規定されている。この事実を多くの人は見落としている。その為に、経済の基礎がしっかりと固まらず。総会屋のような存在を許すことになる。総会屋は、株主会議に問題があるのではなく。会議の在り方に対する日本人の無理解さに起因している。この点を解決しない限り、経済の民主化は達成されない。
資本主義体制は、会議による体制である。株式会社の一生を例にしてみると次のようになる。
株式会社は幾つかの機関から成り立っている。そして、その機関の幾つかは、会議体である。株式会社自体が会議体だと言っても差し支えない。
株式会社は、法人である。法人というのは、人間以外の対象が法によって特別に人格を与えられた団体・組織を言う。つまり、法人は、法によって作られた人格、人としての権利・能力を与えられた団体だと言える。
なぜこの様に人間でない団体に人間と同じような人格を与える必要があったのか、そこに資本主義の鍵が隠されている。つまり、団体が人間と同じように物を所有したり、また、納税をする必要が生じたからである。そして、その為には、他団体が人間と同じように意志を持ち、意思決定をする必要が生じたのである。その為に、組織的な意思決定の機関を持つように、法的な法人を規制する必要が生じたのである。この事によって法人は、会議体を機関として設定することが義務づけられている。
株式会社の設立には、発起設立と募集設立がある。ここでは、募集設立を例にとってみよう。募集設立によって株式会社を設立するためには、先ず発起人会を開く必要がある。その次に、創立総会を開き。取締役会を開かなければならない。これらの会議は、法的に定められた会議である。
つまり、株式会社は、設立するだけで少なくとも三つの法的に会議が開かれなければならないのである。そして、それぞれの会議で決議される必要のある議案、会議の構成、出席者、定足数、採決の方法、記録の仕方、届け出書類の作り方、手続きなど詳細にわたって法的に決められている。
発起人会、設立総会は、議会型の会議であり、取締役会は、閣議、執行型の会議である。
実務上の会議の多くは、仮想的な会議、形式的な会議に堕している。しかし、法的に会議が義務づけられているには、それなりの理由がある。
それでは、株式会社の代表的機関である株主総会を例にとって会議を検討してみたい。
株主総会が成立するためには、第一に、株主総会の権限を定款によって定めなければならない。第二に、法に定められた手続きに従って総会を招集する必要がある。第三に、招集者。例えば定時総会は、取締役会の決議に基づいて、代表取締役が招集する。第四に、総会の種類。株主総会は、定時総会、臨時総会、株主招集総会の三つである。第五に、株主会議の目的は、報告事項と決議事項の二つがある。第六に、株主総会の決議は、法によって定められた要件を満たしていなければならない。法によって定められた要件は、定足数、会議成立要件と決議成立要件の二つからなる。第七に、決議事項法定主義。株主総会で決議できるのは、法律又は定款に定められている事項のみである。第八に、株主総会の決議は、普通決議と特別決議、特殊決議からなる。普通決議は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数の出席(定足数、会議成立要件)。出席した株主の議決総数の過半数(議決成立要件)を満たしていなければならない。また、特別決議は、議決を行使できる株主の議決権の過半数の出席(定款により、三分の一二まで緩和できる)。出席した株主の三分の二以上の賛成によって成立する。第九に、一株一議決権の原則。第十に、株主平等の原則。第十一に、株主公平の原則。第十二に、議決権の行使の方法。第十三に、少数株主の権利の保護。第十四に、株主提案権。第十五に取締役等の説明義務。第十六に、株主総会決議取消の訴え。第十七に、決議無効の訴え。第十八に、決議不存在確認の訴えなどが規定されている。
また、普通決議、特別決議にかけられる議案の取り扱いも規定されている。
この様に、明確に会議の在り方の取り決めがされている。それなのに、日本人は、会議を会議として認識しておらず。その結果、総会屋のような存在を跋扈させている。
資本主義とは、この様に会議によって成り立ち、保証されているのである。
株主総会は、現代社会における会議の在り方を象徴している。また、株主総会に対する認識、取り扱い方、対応、考え方もまた、現代日本人の会議対する認識の仕方をよく表している。
株主総会は、法的に定められた会議である。その為に、会議が成立するための必要要件を法的に規定している。ところが法的に規定
されているために、会議そのものが形式化してしまい。本来の機能、実体が喪失してしまっている。会議の招集手続き、株主の権利、会議の成立要件、議決の成立要件、原則などは、会議の基本的な在り方を端的に示している。
この様な会議がその本来の機能を喪失し、形骸化していることが今日の民主主義や資本主義の形骸化に繋がっている。
民主主義も、資本主義も、そして、社会主義も、会議体を中核とした体制であることを忘れてはならない。